札幌地方裁判所 昭和46年(ワ)1366号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕そこで被告主張の抗弁について見るに、<証拠>並びに弁論の全趣旨を総合すれば、本件保険契約においては、保険の目的である自動車を使用し又は管理する使用人の故意又は重大な過失によつて生じた損害については、被告においてこれをてん補しない旨約定されている(自動車保険普通保険約款一章二条一項((イ))ことが認められ、この認定に反する証拠がない。
ところで、本件の盗難の発生原因について見るに、訴外永野が原告の被用者であること、同人において本件自動車を駐車した場所が被告主張のとおりであり、しかも右駐車に際し本件自動車にエンジン・キーが差しこまれたままであつたことは当事者間に争いがなく、<証拠>並びに検証の結果を総合すれば、本件自動車は訴外永野建二のいわゆるセールスのための専用車であつて、同人がその所有者である原告からその管理を委ねられていたものであること、訴外永野が前記のとおり本件自動車を駐車しておいた場所は原告が本件自動車その他の車両の駐車場として使用している場所であつて、原告の事務所内からその駐車の状態を視認することはできるものの、右駐車場はその東側を前記国道一二号線に接し、特別に柵の設備もなく、また監視人等も配置されていなかつたし、前記のとおり事務所内から視認しうるにしても、その監視は必ずしも充分ではなく、右盗難時においても訴外永野及び右事務所内にいあわせた数人の原告の被用者も全くこれに気づかなかつたことが認められ、これらの事実によれば、本件の盗難は、駐車設備も不完全で、その監視も充分にいき届かない前記場所にエンジン・キーを差しこんだまま本件自動車を駐車しておいたことによつて誘発せしめられたものと認めるのが相当であり、したがつてまた、それは本件自動車を使用し管理する責に任ずべき訴外永野の過失によつて発生せしめられたものと断ぜざるを得ないのである。しかしながら、<証拠>並びに弁論の全趣旨を総合すれば、右駐車場には常時原告所有車両が駐車され、本件自動車も他車の出入の妨害にならないよう常に盗難時と同じ状態において駐車されているのであるが、かつて盗難の危険にさらされたこともなく、本件盗難は、自己の職場にいや気がさしてたまたま右駐車場附近を通りかかつた訴外吉田栄一によつて発生せしめられた極めて偶発的な事故であることが認められるのであつて、この事実を参酌して考えると前記訴外永野に過失があつたことは前記のとおりではあるが、この過失をもつて被告の本件保険契約に基づく損害てん補責任を全免するほどの重大な過失と評価することはできない。そして本件の他の全証拠を検討して見ても訴外永野に右にいう重過失があつたことを確認しうる資料はないから、被告の免責の抗弁は採用の限りではない。
(原島克巳)